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2016年11月29日火曜日

【部品】Dual Gate FETs

【高周波用デュアル・ゲートFET 今昔】

 【3SK22-BL
 この3SK22と言うFET(電界効果トランジスタ)は「デュアル・ゲートFETなんですか?」と聞かれることがあります。その裏には3SK35や3Sk59などの代わりに使えるのだろうか?・・・と言う期待があるのかも知れません。

 一応3SKと付いてますから4電極の・・・すなわちデュアル・ゲートFETの仲間と考えて良いでしょう。 但し、次の時代に登場した3SK35のようなMOS構造のデュアル・ゲートFETとは構造の違う別物なのです。ですから代替品にはなりません。 言うまでも無いでしょうが、デュアル・ゲート FETとはゲート電極が2つあるFETのことです。

 3SK22はMOS構造ではなく、ジャンクション型(接合型)のFETです。 しかし接合型・MOS型を問わず普通の小信号用FETならペレット(半導体の小片)の表面側に作ったゲートの他にサブストレート(表面より下の基体部分)の側に副次的なゲートが(自然に)できるのです。 これをサブストレート・ゲートと言いますが普通は内部でソース電極に接続するか、表側のゲートと結んでしまいます。 サブストレート・ゲートを第2ゲートとして独立させて足ピンに引き出すことは稀なのです。 この3SK22はその稀なJ-FETです。 足ピンに引き出された第2ゲートが外装ケースと共通なのはサブストレートはケースに張り付いていて不可分だからです。 従ってサブストレート・ゲートをソース電極に結んで使えば一般的なシングルゲートの高周波用J-FET・・・例えば2SK192Aなどと同じになります。

 今となってはサブストレート・ゲートを引き出す効用はあまり無いように思います。 表側のゲート(正規のゲート)と比べて性能が良くないからです。 また構造から見てもドレインと第1ゲート(表側の正規のゲート)の間を遮蔽する効果はないので、帰還容量:Crssは低減されません。 従ってこの3SK22は高周波増幅回路ではCrssの「中和」を行なわないと発振することがあります。

 3SK22の後に登場したデュアル・ゲートMOS FETのお陰で存在意義は無くなったものと思います。 まれに第2ゲートの方に局発を注入するミキサ回路を見掛けますが、そのような回路例はかなり古い設計なのでしょう。 3SK35のようなデュアル・ゲート MOS-FETの方が使い易く性能も良いのであえて3SK22で何かを作って見るほどの魅力は感じられません。

 3SK22はSSBトランシーバのVFOによく使われていました。(例:TS-510やFTDX-401など) これはパッケージが金属製なので熱伝導が良く、熱的な平衡状態に短時間で達するからだと思います。電源投入後の初期変動が早く落ち着くのでしょう。 デバイスの電気的な性能では2SK192AなどシングルゲートのJ-FETと違いはないのですが、VFOのようなデリケートな用途ではパッケージ構造の違いが現れたものと考えられます。

FM Tuner Front end
 3SK22を使った回路を紹介してこのFETのことは忘れることにしましょう。(笑) 左図はFMチューナのフロントエンド部分です。
 アンテナから入ったFM放送波は3SK22で高周波増幅されます。 この回路ではドレイン側の負荷インピーダンスをかなり低くとってゲインを抑え気味にすることで中和ナシで済ませています。 ミキサにも3SK22を使えば有利だった筈ですが、登場した当時は高価だったので高周波増幅だけに使ったのでしょう。

 局発回路が自励発振ではHAM用としては不適当ですが水晶発振器に置き換えればクリスタル・コンバータ(クリコン)になります。 このままの回路構成でも50MHzあたりでしたらマズマズの性能を発揮してくれるでしょう。 しかし3SK22を持っているなら別ですが、新規に購入するくらいならこの回路はお奨めしません。 それに2SK241や2SK544に置き換えてやれば同じように作れますし中和も要らなくて性能も向上しますから・・・時代遅れでしょうね。

MFE3007
米国では高入力インピーダンスのデバイスや高周波用としてMOS-FETの開発に国防省の研究予算が付いていたそうです。 かなり長い期間研究されたようです。 最初のころシリコンで作るのは困難だったようでセレン:Seやカドミウム:Cdなどを使ったMOS-FETの試作が試みられていました。1960年前後の話しです。 しかし、いずれもデバイスとしての特性安定性や寿命などの点で実用にならず実験室の域を出なかったようです。

 その後、シリコンで作れるようになってMOS-FETが実用になりました。 最初の頃はシングルゲートのMOS-FETも作られたようですが、帰還容量:Crssが大幅に低減でき高周波増幅が容易になることからデュアル・ゲートMOS-FETが主流になりました。

 初期のころ国産品は量産が遅れたようで手に入ったとしても高価なデバイスでした。 しかしニーズはあると見てか今の秋月電子通商、かつての信越電機商会に米国製のデュアル ・ゲート MOS-FETが登場しました。それがこのMFE3007(モトローラ製)でした。 デュアル・ゲート MOS-FETは米QST誌の記事やCQ誌の「技術展望」などで紹介されており、高周波増幅に於ける優位性が強調されていたので注目されたのです。

 さっそく手に入れたのですが初めて手にするデバイスとあって神経質なくらい気を使いました。 たぶん国産品より安価だったと思います。それでも一般的なトランジスタより高価だったのでしょう。静電気にたいへん弱いとされ素手で触っただけても壊れると言われるほどで、ハンドリングは容易ではなかったのです。 静電気保護のために各電極が短絡されるよう写真のようなハトメに足を通して売られていました。

 具体的に何を作ったのかは覚えていませんが、性能云々よりも使いにくいデバイスと言う印象が残りました。 現実には乾燥した季節なら気をつけるべきでしょうが、そこまで静電気に神経質にならなくても大丈夫だったように思います。 もう少しリラックスして使えたら印象も変わったでしょうね。(笑)


3SK45-B
 初期のデュアル・ゲート MOS-FETの問題はゲート酸化膜の静電気破壊にあったことは間違いありません。 やがてゲート保護用のダイオードが内蔵されるようになって一気に普及したように思います。 極端な話し保護のお陰で扱いは一般的な半導体とさして違わなくなったからです。 米国ではRCA社の「40673」が非常にポピュラーになりました。

 国産品では3SK35(東芝)あたりが初期の量産品のようですが、各社から類似の製品が一斉に登場しました。 写真の3SK45(日立)もその一つです。 主にFMチューナのフロントエンド、TVのVHFチューナ部分への利用を目的に作られたようです。当時の民生電子機器の事情を反映したものでした。

 VHF帯の無線通信が盛んになり、またFM局やTV局も次々に開局するに及んで相互変調や混変調と言う「多信号特性」が問題になりました。FCCによる基準もあったようで特に米国に輸出する機器では重要でした。 感度的には従来のバイポーラ・トランジスタでも十分だったのですが多信号特性が満足できなかったのです。 FETの伝達特性はほぼ二乗特性であるため指数関数的なバイポーラ・トランジスタよりも多信号特性は有利です。 ニーズから半導体各社とも一気に高周波用MOS-FETの開発が進んだようです。

  最初は高価だったデュアル・ゲート MOS-FETも入手容易になりました。高周波増幅に一つくらい使うのが精一杯だったのが、やがて中間周波増幅を含め高周波の各所に使えるようになりました。 有名な「熊本シティスタンダード」では随所に使われており「これから高周波はデュアル・ゲート MOS-FETだなあ」と思ったものです。

 しかし、第2ゲートにAGCを掛けるRFアンプとかミキサ回路のようにゲートが二つある特徴を活かした使い方なら別ですが、単なる増幅には第2ゲート部分の部品が増えると言う欠点もあったのです。 そのため少ない外付け部品で済む2SK241のような内部カスコード構造のRF用MOS-FETが登場しました。 ですから今ではデュアル・ゲートの特徴を活かした使い方でもない限り、2SK241、2SK439、2SK544のような内部カスコード構造のシングルゲート FETで十分と言うことになります。

備考:ハンダ付けに注意を!
危ないのは静電気だけではありません。 ハンダ付けツールの進歩で心配は減りましたが、ハンダ鏝によってはAC100Vの漏れ電流が存在します。それが危ないのです。 電子回路用として主流になっているセラミックヒータのハンダ鏝なら概ね安心です。 しかし近所のホームセンタを見ていたら雲母板にニクロム線を巻いたヒータ構造のハンダ鏝が売られていました。こうした昔ながらの構造のハンダ鏝は漏れ電流が多いことがあって半導体回路には不適当です。 ハンダ付けしただけで大切なFETやICを壊してしまう恐れがあります。むしろ静電気よりも危険です。

TRIO TS-520のRF Unit
 FETを積極的に使った無線機の例を紹介しておきましょう。各種FETの上手な使い方を知るのにはうってつけです。

 左図はTRIO(現在のKenwood社):TS-520のRFユニットです。高周波増幅だけでなくミキサにも3SK35や3SK41を使っています。 この時代のSSBトランシーバは真空管時代の影響が色濃く残っていました。 真空管とのハイブリッド構造と言うこともありますが、真空管時代と同様の回路構成になっていたからです。 そのため入力インピーダンスが高く、真空管(五極管)と類似の回路形式で使えるFETは重宝されたのです。

 FETの活用と言う視点で見るとTS-520は大変面白い回路になっています。 まず、送信ミキサーですが3SK41を使った理由がわかりません。3SK35のIdssが大きめの物でも良かったように思います。殆ど違いはないからです。部品メーカが偏らぬよう配慮したのでしょうか?
 TS-520の10MHz:JJY/WWV受信回路は独立していてこの部分には3SK22が使われています。独立させたのはバンドスイッチを安く上げる工夫でしょう。 この部分はシビアな性能は求めない補助的な回路なのでコストダウン目的に3SK22を使ったのでしょう。 3SK35の登場で時代遅れになった3SK22なら幾らかリーズナブルだった筈です。 なお、バンドスイッチの位置にかかわらずボタン一つでJJY/WWVが受信できる機能はFBだと思います。

 ミキサ回路での使い方も面白いと思います。 一般的にデュアル・ゲート MOS-FETのミキサ回路では受信信号を第1ゲート、局発信号を第2ゲートに加えて使います。 その方がNFが小さく変換ゲインも大きくとれるため有利だからです。 しかしTS-520では局発を第1ゲート、信号は第2ゲートと逆になっているのが目に留まるでしょう。

 これはミキサのゲインが過剰にならぬよう配慮したためと思われます。 TS-520のようなダブルコンバージョン形式の受信部はクリスタルフィルタ以前の帯域が広い部分でゲイン過剰になり易いのです。 真空管と比較してMOS-FETはかなりHigh-gmなので安易にやるとゲインオーバになるので特に注意を要します。 真空管よりも電源電圧が大幅に低いこともあってアンプやミキサが簡単に飽和してしまいます。 定石通り普通に使ったのでは多信号特性が満足できなかったのでしょう。 それで信号を第2ゲートに加えることで変換ゲインを抑えるよう工夫したものと考えられます。 ゲイン配分とデバイスの特性を良く検討してあると思いました。 八重洲無線のFT-101よりも後から登場しただけのことはあるようです。

Collins 651S-1AのSSB/CW復調回路
 デュアル・ゲート MOS-FETが活かせる回路の一つに「プロダクト検波」があります。

 左図はCollinsのプロ用受信機:651S-1AのSSB/CW検波回路です。 3N141と言うデュアル・ゲート MOS-FETを使って検波しています。 初めて見たとき、このような回路で復調歪みほか満足な性能が得られるのか心配になりました。 しかしそれは杞憂であって実際にはとても旨く働きます。復調音もなかなか良好です。

 SSB検波と言うとSA612やMC1496のようなDBMをすぐに考えたくなりますがデュアル・ゲート MOS-FETのプロダクト検波でも十分満足できる性能が得られます。 実際にDC受信機や自作受信機のSSB検波に使いましたが不満はありませんでした。 SSB送信機のようにキャリヤ・サプレッションを必要とするならDBMに限ります。 しかし受信機の検波回路にその必要はありません。 今でも「プロダクト検波」はデュアル・ゲート MOS-FETの特徴が活かせる回路の一つだと思っています。 BFOの注入レベルがキーポイントになります。

シンプルなRFプリアンプ
 デュアル・ゲート MOS-FETの手持ちがあったら使ってみたくなるでしょう。 左図のようなプリアンプは如何ですか?

 こんな簡単なアンプでも20dB以上のゲインは簡単に得られます。 しかもノイズ・フィギャも良好です。 感度不足の受信機に付けたら効果的です。 FETは図の3SK35のほか、3SK41、3SK45、3SK48、3SK51、3SK59、3SK73、etc・・・どれでも同じような性能を発揮します。 図の端子1と端子2の間に電流計を接続し5〜10mA程度の電流が流れるようにバイアス回路の抵抗器:4.7kΩを加減してやればOKです。 入出力のコイルはトロイダルコアに自身で巻けばベストですが、FCZコイル(および互換品)でも「まあまあ」でしょう。

 なお、このあと説明する「エンハンスメントモード」のデュアル・ゲート MOS-FETの場合は第1ゲートにも正のバイアス電圧を加えて同じ程度のドレイン電流が流れるように使えば同等の性能が得られます。

こうした「プリ・アンプ」の注意点を書いておきます。
 現在市販されているHAM局用のトランシーバのような近代的な無線機に後付けの「プリアンプ」は不必要です。 付ければSメータの振れは良くなりますが「感度」は改善されません。聞こえなかった局が聞こえるようになる可能性はほぼゼロです。(まあ、アンテナが劣悪なら別かもしれませんが・笑)
 逆に、改善どころか多信号特性は確実に劣化します。 近隣の周波数で強い局がオンエアすればいわゆる「かぶり」が酷くなります。 その強い局が悪いからではありません。余分なプリアンプなど付けた自分が悪いのです。
 従って、こうしたプリアンプが効果を発揮するのはもともと高周波部分のゲインが不足しているような簡易な受信機に限られると思って下さい。 それ以外の近代的な無線機には「有害無益」な付加装置だと思って間違いありません。
 無線局に於いて聞こえを良くするには「アンテナの改善」が第一です。 付加回路で補えることには限度があるのです。

追記Pri-Ampはどんな時に有効か?
最近のRigで運用するならHF帯ではPri-Ampの必要性はまずありません。Pri-Ampが効果的なのは以下のようなケースです。
(1)非常に旧式の受信機;特に21〜28MHzといったHF帯ハイバンドで感度低下があるような古いリグで効果があります。例えば、TS-510やFT-400と言った真空管時代のリグです。それ以降のリグではまず必要はありません。調整がずれたようなRigは論外ですが。(笑)
(2)VHF帯でケーブルロスがある場合;50MHz以上になると同軸ケーブルの信号ロスが目立ってきます。そのような場合、Pri-Ampをアンテナ直下に置くことで事実上ケーブルロスが無視できるようになります。Rigの近くに置いたのでは意味ないので、なるべくアンテナの直近に置きます。

3SK103
 金属Canパッケージに入っているようなデュアル・ゲート MOS-FETはすべて廃止品種でしょう。

 ニーズの減少でデュアル・ゲート MOS-FETは淘汰されつつありますが、まだ幾らか手に入ります。 写真の3SK103は比較的入手し易い品種です。 但し近ごろのFETでは「エンハンスメント・モード特性」のFETが多いので注意が必要です。
参考:2016年11月現在、秋月電子通商(←リンク)で販売されています。

 このFETも上で説明しているような各用途に使えるるのは勿論ですが、バイアスの与え方に注意します。 一般に第2ゲートにはドレイン電圧;Vdsの1/3〜1/2程度のバイアス電圧を与えます。例えば電源電圧が12VならG2へDC4〜6Vを与えれば良いわけです。 その上で従来型の「ディプレッション・モード特性」のFETでは第1ゲートのバイアス電圧は負もしくはゼロで使います。 ソースとGND間に抵抗が入っていれば第1ゲートは負のバイアスが掛かっています。その状態でソース抵抗の大きさでドレイン電流を加減します。
 しかし、3SK103のようなエンハンスメント・モードのFETでは、そのように使うとドレイン電流は殆ど流れません。流れたところで数10μAくらいのものでしょう。これでは旨く増幅してくれません。

 3SK103のようなFETの使い方ですが、まず第2ゲートのバイアス電圧はそのままで大丈夫です。 第1ゲートに正の(要するにプラスの)バイアスを与えて所定のドレイン電流が流れるようにするのです。 正のバイアス電圧は電源電圧を分圧するなどの方法で得てから、高抵抗を通して第1ゲート加えてやれば良いです。特に難しくはありません。 そのようにして使えば同等の性能が得られます。なお、電源電圧(ドレイン・ソース間電圧:Vds)が特に低くない限りソース抵抗:Rsは省略しない方が無難です。

 プロダクト検波の場合、第1ゲートのバイアス電圧を加減して1〜2mA程度のドレイン電流が流れるように調整すればOKでしょう。 ミキサー回路も同様の調整で旨く行きます。 エンハンスメント・モードのデュアル・ゲート MOS-FETもバイアスの与え方でドレイン電流を調整すれば良いのですから毛嫌いせず有効活用したいものです。

3SK294
 比較的新しいデュアル・ゲート MOS-FETを紹介しておきます。 上で扱った3SK103はだいぶ古くなったデバイスでした。既に生産は終了している筈で、たまたま何所かに在庫が沢山あったので手に入り易くなっているのだと思います。 それほど長くは続かない筈です。

 写真の3SK294(東芝)は現行のデュアル・ゲート MOS-FETです。 表面実装用のパッケージに入っているので少々扱い難いのですが当分入手には困らないでしょう。 10個230円にて秋月電子通商(←リンク)で購入できます。 VHF帯までの高周波増幅用としてなかなか高性能なデュアル・ゲート MOS-FETです。性能から見て安いと思います。特に帰還容量:CrssがfF(フェムト・ファラド=1/1000pF)のオーダーなのはとても素晴らしいです。ドレイン:Dと第一ゲート:G1が良く遮蔽(シールド)されている証拠です。このくらいになると使いかたの方が問題になりますね。
 なお、この3SK294も「エンハンスメント・モード特性」なのでバイアスの与え方に注意して下さい。 それさえ注意すれば従来からの回路に使えるのは勿論です。 なかなか高性能ですから推奨できる現行のデバイスだと思います。 できたらパッケージに合わせて表面実装で使いたいですね。

YAESU FTDX-5000の1st Mixer
 最後に3SK294が実際に使われている例を示しておきましょう。 左図は八重洲無線のトランシーバ:FTDX-5000の第1ミキサー付近です。
 FTDX-5000では3SK294を4つ使ってスイッチング・タイプのDBMを構成しています。 非直線特性あるいは二乗特性を使ったミキサー回路と言う使い方ではありません。 局発信号によって各FETをON/OFFさせるコミュテーティング・ミキサ(Commutating mixer)と言う回路のスイッチ素子として使っているのです。 このような回路形式の方が歪特性に対して明らかに有利だからです。 従来はJ-310あるいはSST-310と言ったJ-FETが使われてきましたが、3SK294の方が幾分スイッチ素子として優れているのでしょう。エンハンスメント・モード特性のデバイスなのでこのような回路に使い易いのは確かです。

 もう10年数年も前になりますがFST3125(e-エレに少量在庫あり)のようなBus-SWのICを使った高性能ミキサをテストしたことがありました。その結果、3次のインプット・インターセプト・ポイント:IIP3は40dBm以上と言う高性能が確認できたのです。 だいぶ時間はかかりましたが、昨今のメーカー機でもスイッチング・デバイスを使ったCommutating mixerの有利さが(やっと)認識され積極的に採用されるようになったことは喜ばしいことです。このミキサ回路は受信性能の向上にずいぶん貢献した筈です。 比較する意味もありませんが、ビーム偏向管:7360のミキサなどもう完全な時代錯誤になりましたね。(でも好きですけれど・爆)

 なお、Kenwood社がBus-SWを採用して高性能化しているのに対し八重洲無線はそれとの差別化の意味から3SK294を使ったのではないかと想像しています。 ON抵抗が小さくてしかも高速動作できることから使ったのでしょう。デバイスは違っても回路に使う目的はまったく同じです。 Commutating mixerにはD-MOS FETが最適ですが製造しているメーカも製品の種類も限られます。 量産品として性能/コストで優れることからBus-SWや3SK294を採用したのでしょう。(想像です・笑) 蛇足ながらBus-SWの中身はD-MOS FETです。ゲートドライブのインターフェース回路を考えただけでも外付け部品は必要ないのですからずっと使い易いです。自作にはBus-SWの方をお奨めしたいです。

                   ☆

 少し前のBlogにデュアル・ゲート FETを扱った企画を検討中と書いたら思わずたくさんのコメントを頂き驚きました。 最近の懇親会でも「アレはどうなったの?」とご質問を頂きました。半ば過去のデバイスのように思っていましたが今でも意外にポピュラーなのでしょうか?  いよいよ年末も迫ってきたので年を越さぬうちに扱うことにしました。(笑)
 デュアル・ゲート FETは、これまで様々な場所に使ってきました。従ってこのBlogの為に新たな実験はありません。読み物風に終始しましたがお楽しみ頂けたでしょうか? 何か書き忘れたこともあったかもしれません。 面白いテーマでも思いついたら、いずれ実験も交えて扱ってみたいと思っています。

 ご覧頂いたように、デュアル・ゲート FETのニーズは限定的になっているように感じます。 増幅素子として過去のように重宝されることは無いかもしれません。 しかし、用途によっては威力を発揮するのも確かです。2つあるゲートが有効に機能するような回路には「うってつけ」だからです。 上には書きませんでしたが再生検波回路に使ってみたところなかなか良好だったと言うような経験もあります。

 1980〜90年代にポピュラーだった3SK59や3SK73のような古い品種はずいぶん値上がりしています。手持ちがあれば別でしょうが探して新たな製作に使うメリットはないと思います。 しかし新しい世代の(但しあまり知られていない)品種なら安価ですしRFデバイスとして性能も一段と向上していますす。 ご紹介した3SK294以外にも幾つか存在します。 データシートを片手に構想を煉って積極的に使ってみたら面白いでしょう。

 なお、単なる高周波増幅やIFアンプでしたら2SK241、2SK439、2SK544のような内部カスコード構造の高周波用MOS-FETが向いています。 外付け部品が少なくスッキリした回路が作れるのでそのような目的にデュアル・ゲート MOS-FETの出番は無いと思っています。 ではまた。 de JA9TTT/1

(おわり)nm

2016年11月14日月曜日

【部品】Over Driving an AD9834 DDS-IC , Part 3

【部品:AD9834 DDS-ICのオーバードライブ・第3部】
 【AD9834はどこまで使えるのか?・追試
  AD9834に与えるクロックの上限周波数はどこなのか?・・・と言う実験の追試です。

 前回のテスト(←リンク)では約110MHzと言う取りあえずの結果が得られました。 しかし、GNDと電源系に幾つかの対策を行なうことで更に延ばせるのではないかと言うご意見を頂いたのです。

 そこで、DDS-ICのGNDピンを最短距離でGNDラインに接続し、Digtal系とAnalog系の電源端子をGNDラインに向かって最短距離でバイパスするなどの対策を行なってみました。

 テスト方法は前回と同じなので、詳しくはリンクを戻って確認して下さい。 簡単に説明すると、Clockは外部の信号発生器(SSG)から与えています。 与えるClock信号はレベルを変えて最適化します。 その状態でDDS-ICから得られた出力信号の波形とスペクトラムを確認して正常な動作が可能な上限クロック周波数を探ろうとするものです。

結論を先送りする意味も無いので先に書いてしまいますが、AD9834のクロック周波数上限は、やはり110MHzです。但し、これは私なりの結果と言うことです。以下、簡単ですがそれに至る過程です。

                   ☆

 Analog Devices 社のDDS-IC:AD9834の活用範囲を拡大する目的でテストをしています。このBlogは自身で参照するための記録として書いています。 従って貴方の知りたい事のすべてが書かれている訳ではありません。 このDDS-ICの活用を目論むなら役立つ可能性もありますが、それ以外のお方には時間の浪費でしょう。 漠然と眺めていても何も意味は無いので早々のお帰りをお奨めします。

GNDとバイパスコンデンサを最適化
 AD9834 DDS-ICをピッチ変換基板に載せ、更にブレッドボードで実験しています。 そのため、どうしてもGNDラインが長くなります。 また、各電源端子のバイパスコンデンサも最短距離でGNDラインに落とすのは困難でした。

  そこで、変換基板上に銅箔テープで大きめのGNDを設けました。 Digitalおよびanalogの各GNDピンはそのGNDに向かって短く配線します。 また、電源系のバイパスコンデンサもそのGNDに向かって最短配線します。

 50〜100MHzと言った周波数ですから、まだまだ波長も長く写真の程度にGND配線してあればほとんど問題になることはないでしょう。 不要なGNDループなどできないので概ね専用のプリントパターンを書いたのと類似の効果が得られる筈です。 ピッチ変換基板自体が狭小なため加工は厄介でしたが実験が可能な状態が作れたと思っています。

 【クロック120MHzの出力波形
 信号発生器から120MHzのクロックを与え、DDS-ICから約11.2MHzを取出している状態です。 なお、クロックから折り返して出力されるスプリアスは簡単に除去してあります。

 写真のように奇麗な正弦波が得られました。 クロックの周波数を更にアップして行くと、サイン波の出力に必要なクロック振幅は大きくなって行きますが150MHz以上でも動作するようでした。 このあたりは、前回のテスト(= 第2部)でも同様でした。

 GND系を強化し、バイパスコンデンサも最適化したことでクロック周波数の延びが期待されます。  正弦波は奇麗そうですが肝心のスペクトラムはどうでしょうか?

 【出力スペクトラム:Clock=120MHz
 上記の状態、即ちクロックを120MHzとして、DDS-ICの出力を11.2MHzとした状態でスペクトラムを観測してみました。

 残念ですが改善されなかったようです。 クロック信号の振幅を加減しつつ、最適なポイントを探ってみたのですがどうやっても奇麗なスペクトラムは得られません。 クロック周波数に依存性があるのかと思い、上下の周波数へ2〜3MHzくらい変えてみても状況は何ら変わりませんでした。

 オシロスコープの波形観測でわからないのはスプリアスの混入が-20〜-30dB(1〜0.1%)程度だからです。振幅成分および異った周波数の混入が1%程度では意外に奇麗な正弦波に見えるのです。しかし目的次第とは言え、-20dBでは大半の用途で使い物にはなりません。 例えば、受信機の局発なら-80dBくらいでないと不要信号の受信として感じられてしまいます。送信機ならローカル局には少なからず貴方の不要輻射が感じられるでしょう。 実験的に使うような信号源ならいざ知らず、きちんとした発振器としては通用しないのです。

 正常と見られる動作に落ち着く周波数はどの辺りなのか、改めて確認してみたのですが前回のテスト結果とほぼ同じでした。 従って、AD9834CRUZは110MHzが正常動作の上限であると考えて良いと思います。 カタログスペックが50MHzのAD9834BRUZについては実施しませんでしたが、CRUZを大幅に上回るような好結果は期待できないでしょう。

出力スペクトラム:Clock=110MHz
 改めて正常動作が可能な110MHzのクロックを与えて、出力のスペクトラムを確認してみました。

 写真のように奇麗なスペクトラムが得られました。 GNDとバイパスコンデンサを強化対策してもクロック周波数の上限を延ばす効果はほとんど無かったようです。また、従来の試作検討方法でも特に問題は無かったと言うことになります。

 以上数回に渡る実験の結果から、AD9834CRUZおよびAD9834BRUZ共に奇麗な出力信号を得るためのクロック周波数の上限は110MHzだと考えれば良いでしょう。  自身のアプリケーションでは、標準75MHz、特に高い周波数が必要な時に100MHzを実用の上限に考えたいと思います。

                 ☆ ☆ ☆

 AD9834のクロック上限周波数への期待は大きかったので、もう少し延びて欲しかったと思います。 理想を言えば67.108864MHzの2倍である134.217728MHzまで延びてくれたら最高でした。 そうすれば最小ステップ0.5Hzで信号発生ができたからです。 実験してみると確かにそのクロック周波数でも正弦波らしい波形は得られたのです。しかしスペクトラムを観察するとかなり酷いので用途は限定されそうでした。 残念ながら諦めた方が良さそうですね。 たとえ幾ばくか上限周波数が延ばせるとしても余りにも高級な手段を必要とするようでは実用性は損なわれてしまいます。 比較的簡単に可能なここ迄にしておきましょう。もともと50MHzあるいは75MHzが上限周波数のチップが100MHzあたりまで使えたのですから十分に満足できる結果です。

 AD9834はアキュムレータ長が28ビットなのでクロック周波数を高くすると出力信号の周波数ステップが粗くなってしまいます。 100MHzでは計算上:0.3725290298Hz刻みになっており、DDSで得る信号としてはかなり粗い刻みでしょう。 AD9850/51のように32ビット長なら良いのですが、28ビット長なのですから仕方ありません。 従って、75〜100MHzあたりを上限と考えて使う方が信号ステップの刻みから言っても適当だろうと思っています。 実際、約0.37Hz刻みでは精密な用途なら周波数設定の粗さが見えてきてしまうでしょう。 もちろん一般的な送受信機であれば未だ十分な周波数設定の細かさと言えるので75〜100MHzのクロックで使うのなら実用上の支障はまずありません。 では、また。 de JA9TTT/1

(おわり)fm